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「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・」
誰かの息づかいと足音が、少し離れた所から聞こえてくる。
目を凝らすが、周りが暗いせいで良く見えない。
「ハッ・・・ハッ・・・ハッハッ・・・」
逃げなきゃ。
何故か俺は直感でそう思って、足音とは逆の方向へ走り出した。
「ハッ・・・ハッ・・ハッ」
息づかいが近づいてくる。どんどん、どんどん、俺は怖くて振り向けずにいる。
「・・・・たけ・・る」
「・・・・仁?」
微かな声は俺を呼んだ。だが、足を止める事なく後ろを振り返ると、走ってくるのは仁だった。
いや、正確には体の左半分が仁で、右側は知らない男がくっついた「なにか」だった。
「うわっ!!」
俺は一度緩めた速度を上げて前へと必死で走る。
なんだ、アレは。
ノリでつけた様に半分でくっついた体。
走りながら、頭の部分は時々ベリッと音を出して剥がれたり、くっついたりしている。
逃げなきゃ、とにかく逃げなければ。
怖くて、怖くて、半分は仁だというのに、立ち止まることが出来ない。
「チョ・・ウ・・・ダイ。カラダ・・・ハンブン」
男が口走る言葉に改めて恐怖を覚える。
逃げろ、でもどこへ?
走っていく先に小さな明かりが見える。
あれだ、あそこに行かなくては!
あそこに行けばきっと助かる!
俺は光の漏れる先へと進んで行った。
ーージリジリジリジリジリ
「うわっああ!!!」
いつもの時間にセットされていた目覚まし時計が鳴り現実へと戻ってこれた。
カラダは汗でベッタリしているのに、鳥肌が立っていた。
「逃げ切った。逃げ切ってやったぞ。フッ、ハッ・・・アハハハハハハ、やった、やったぞ、仁、俺は逃げ切ったぞ!」
大きな音を立てている心臓に手をやり、生きている実感を噛み締めながら、俺はもう片方の手でガッツポーズをして大きく息を吐いた。
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