半分あげるから

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 彼女はそう言って微笑み、1歩俺へ向かって踏み出した。  一気に距離が縮まる。 「いい香りがしますね」  俺の首元で彼女はそう言ってニッコリと笑った。  ――俺は一瞬で彼女に落ちた。  それから3日に1度くらいの割合で彼女と顔を合わせるようになった。  これまで自分を着飾ることなんてして来なかったが、彼女に自分を少しでもよく見せたくてこれまで手をつけていなかった5億にとうとう手を出した。  ブランド物のスーツ、高級車、時計に、アクセサリー。  いつも決まって「いい香り」と褒めてくれる彼女だが、俺は香水の類はつけていない。  もっと褒めてもらいたくて流行りの香水をつけたりした。 「ね。七瀬くん、最近良くない?」  会社で女子達が小さな声で言っているのが聞こえた。  良かった。ちゃんと女子ウケする方向には向かっているらしい。  だが、それと同時に噂が流れ始めた。  俺が怪しげな副業をしているのではないかという噂だ。  今まで地味だった俺が急に金遣いが荒くなってきたからそう言われてしまうのもわかる。  俺は純粋に恋をしているだけなのに…… 「あ……」 「こんばんは。七瀬さん」  この1ヶ月で彼女……紅野(こうの)さんは俺の名前を呼んでくれるようになった。     
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