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しかし、いつもこの時間からどこへ出掛けているのだろう。
太陽が姿を消し、月が浮かぶこの時間にしか俺達が会うことはなかった。
「こんばんは。あの……気を悪くしないで欲しいんですけど」
「なんですか?」
「その……これから出勤なんでしょうか?」
真っ赤なルージュが似合うその唇が三日月のような弧を描いた。
「少し……お話しませんか?」
俺は熱に浮かされるように彼女に着いていった。
そこは街灯の明かりも僅かしかない公園だった。
「座りましょうか」
誰もいない公園のベンチに言われるままに座ると、彼女も俺の隣へ座った。
心臓が早鐘を打っているのがわかる。
「ふふ……七瀬さん、本当にいい香り……」
「ああ……今は香水つけてるから」
俺の言葉に彼女は首を左右に振った。
「そうじゃないわ。お金の匂いよ」
「え……」
別の意味でギクリとした。
彼女も会社の人間と同じく俺を疑っているのだろうか。
「違うんだ……! 俺はやましいことは何も……!」
「知ってるわ。宝くじが当たったのよね」
俺は絶句した。
何故彼女が知っている?
俺は誰にも言っていないのに……!
「七瀬さん、うなされて寝言を言っていたのよ。誰にも言えなくて苦しかったんでしょうね」
「寝言……!? 俺が?」
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