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○○小学校に伝わる都市伝説。その一つに、
〈卒業式の日の、夜十一時十一分十一秒に、校舎の屋上で夜空に願い事をすると叶う〉
と、いうものがあった。
夜の静けさの中、金網越しに広がる街の灯りを、三人は悲しげな眼差しで見つめていた。
「あと十秒だよ」
タクミが腕時計に目を落とし、呟いた。
ケンタとヨウコは空を見上げた。満点の星空がどこまでも広がっていた。街の灯りよりも小さいもの、大きいもの、黄色、白、オレンジ、それぞれの星たちが自己を主張するかのように瞬いていた。
「五秒……」
言いながらタクミも空を見上げた。三人は心中でカウントダウンを始め、
三……二……一…………、
同時に目を瞑った。
数秒の沈黙が流れた。逸早く瞼を開いたケンタが小さく息を吐いた。
「終わったな」
次に瞼を開いたタクミが星たちの輝きに目を細めて小さく頷いた。
「ボクたちの六年間はこれで終わりだ」
ケンタとタクミは暫し、六年間の小学校生活に思いを馳せた。楽しかった事、辛かった事、悲しい出来事、愉快な出来事。思い出に残っているシーンが一枚一枚の写真として切り取られ、矢継ぎ早に脳裏に写しだされた。頭の中に収められた写真はどれもケンタ、タクミ、ヨウコの三人の姿があった。
「何しんみりしてるのよ。一生の別れでもないのにさ」
ようやく夜空への祈りを捧げ終えたヨウコがぎこちない笑みを浮かべた。
「そうだね」
タクミも笑う。やはりぎこちない。
三人は卒業後、ばらばらの中学校への進学が決まっていた。親の都合だった。
「定期的にさ、私たち三人で集まろうよ」
「うん、そうしよう」
「おれたちはいつも一緒だ」
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