軌道都市

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「やあ。僕は倫弘(のりひろ)。無重力症の支援ボランティアをしてるんだ」  地上から訪れたこの軌道都市で倫弘はボランティアの仕事に就いた。無重力症という、人類が宇宙に進出してから現れた新しい病気の患者を支援する仕事だ。研修を終え、ようやく倫弘は自分の要支援者と向き合うことができた。 「ハイ。倫弘、ぼくはサンゲー。せっかくだけどぼくには支援は必要ないよ」  笑顔らしいものを向けてきた無重力症の患者はいわゆる「二世」だった。彼らは軌道都市を東西に貫く中央シャフトに浮かび、癒合した手足と大きく発達した胸郭、吻の目立つ前後に長く伸びた頭部に、硬質のつやを帯びた昆虫めいた表皮を持つ。タツノオトシゴに喩えられることの多い無重力症二世の典型的な姿だった。  綺麗な子だ、と倫弘は内心で感嘆する。地球でネット越しに知った無重力症者の痛々しい姿と、目の前にいる恐らくはまだローティーンの若者の姿とはまったく違っていた。 「確かにそう見えるね。何か不自由していることはない? 健康状態はどう?」  二人一組で行動するボランティアのパートナーは少し離れたところでネットを覗いて暇つぶしをしている。二世と呼ばれるサンゲーのような無重力症者は倫弘たちボランティアを拒絶するのが常であるらしい。職場ではこの中央シャフトには彼ら二世はいてもボランティアを受け入れる要支援者はいないと見なされていた。  ――そんなはずないんだ。
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