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「おにいたん、こうひい?」
なんだこのガキは。
煙草の煙をガキの顔に吐いてその顔をゆっくりみてみるが、もちろん知らないガキだ。
というのも俺は昨日ここにきたばかりで、明日からの任務に備えて昼間から酒を飲みに来ているのだから。
「こうひい?」
ガキは目を擦った手の人差し指を伸ばして俺の飲んでいるグラスに向けて言った。
「酒だ。」
「なんだあ、おさけ?おさけやっかぁ。」
ガキはもう一度目を擦った。
周りの客や、カウンターの店員に目を向けてみるが誰もこちらを気にする素振りはない。
舌打ちをしてもう一度店内を見回すが、みなそれぞれの時間を過ごしている。
「りゃあ今日は飛ばまいんらね?」
6、7歳に見えるが喋り方がつたなすぎる。
「ボック、ちのう見たんらよう。おにいたんが、飛んれくうの。」
ガキがテーブルの上のナフキンを引っ張りだす。
手に取ったのは1枚だが2枚ほどくっついて出てしまい、床にひらひらと落ちていった。
ガキは紙飛行機を折っているようだ。
ーじゃあ、今日は飛ばないんだね?
ーぼく、昨日みたんだよ。お兄さんが飛んでくるの。
まさか。
「嘘だろ。」
思わず口から出た。
こっちに着いたのはまだ朝日の出る前だ。
ガキは完成した紙飛行機を掲げてキャハハと笑った。
「うそ?うそらないよう。おにいたん、ちのう、朝はやくにきたんだよう。せんとーを、とんでいたね。イーグル、かあっこよかったなあ。」
もう一度ガキの顔に煙を吐きかけてやった。
「俺のはkite、トンビだ。イーグルじゃない。」
ガキは目をギュッとつむり首をブンブンと振った。
「カイト?キャッハハ。うそだうそだ。おにいたん、うそっつき。」
俺は煙草を灰皿に押し付けてガキの紙飛行機を取り上げる。
ナフキンを折り直す。
柔らかくて折りにくい。
ガキは椅子に膝をついて覗き込むように俺の手元をみる。
「おにいしゃんはイーグルれしょ?トンビなんてうそだ。かっこわるうい。」
ガキが作ったのより小ぶりだが羽は広くなった紙飛行機をテーブルに叩きつける。
ガキが「わあ」と言ってそれを手に取り嬉しそうに眺めている。
「俺のカイトを馬鹿にすんな。」
気分が悪くなった俺は席を立って店を出た。
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