11

11/14
前へ
/311ページ
次へ
俺は飛火の胴体を指先でなぞるように触って、ゆっくりと歩く。 主翼を撫でる。 「カイト、明日も飛ぶんだぜ。楽しみだな。」 スポイラーの線を、ナンバーの塗装を、尾翼の角度を、俺は丁寧に撫でる。 愛おしくてたまらない。 「春名さん、中でどうです?」 作業部屋から三崎さんが呼び掛けてくる。 振り返ると小窓の向こうで三崎さんがウイスキーのボトルを掲げていた。 俺は右手を挙げてそれにこたえた。 「なにか気になるところありましたか?」 三崎さんはそう言いながら氷の入ったグラスにウイスキーを注ぐ。 「いいえ。」 俺は返事をして座る。 「なんだか、確かめるように触っていましたね。」 見られていたのかと恥ずかしくなって俺はふっと笑った。 「嬉しくて。」 返事がないので三崎さんの顔をみてみると、三崎さんは不思議そうな顔をして俺を見つめていた。 「かっこいいなぁ、乗りたいなぁ、こいつで飛んで戦地でダンスしたい…そう思ってた飛火が俺の機体なんですから。」 そう言うと顔がにやけてしまう。 「毎日飛火に乗って飛んでいるなんて、夢みたいです。」
/311ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加