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ガキを追い越して走る。 気味の悪い奴だ。 鞄の中の花瓶が揺れて走りづらい。 こんなだだっ広い草原の中を花を持って走る俺。 夏原に見られたら笑われるだろうな。 いや、むしろ教えてやりたい。 俺は早速花を抱えて走っていたんだぞ、と。 大笑いしてくれるに違いない。 「おにいたあーん!待ってくらさあい!」 キーキーと自転車を漕いでガキが追い掛けてくる。 一瞬振り返って、無視して走る。 後ろからキーキーと音がする。 宿舎のF棟に着いて階段を登る。 俺が配属されたイーリック部隊の宿舎だ。 1階は先輩パイロットたちのフロア、2階は俺たち新入りのフロアとなっている。 階段を登ると円形のスペース、それを囲うように部屋が5つある。 そして給湯室とシャワールーム。 1度部屋に行き、花瓶を窓際に置いた。 昨日貰った花を適当にさす。 コーヒーでも飲もうと給湯室に行くと夏原が湯を沸かしていた。 「春名。アシスに行ってたんじゃないのか?」 「あぁ。」 「もう帰ってきたのか?」 「ああ。」 「酒がうまくなかったか。」 「酒はうまかった。今までで一番。」 夏原は自分の分のコーヒーを入れると円形のコミュニティスペースの椅子に座って雑誌を読み出した。 俺も自分のコーヒーを入れ、コミュニティスペースに入る。 マガジンラックにはたくさんの雑誌がおいてある。 「まさかお前、アシスマーケットで花瓶でも買ってきたんじゃないだろうな?」 夏原は「ハハハ」と馬鹿にしたような笑い声をつけたした。 「花瓶を買って、花も買ってきた。」 「嘘だろ?」 俺は夏原の向かいに座った。 「そんな砂まみれで近寄るんじゃねぇよ。」 「昨日まではもっと汚いところにいたじゃないか。」 夏原は雑誌に目を落としたまま少し横向けに座り直した。 夏原は同じIY基地から来た仲間だ。 歳は俺の1つ上で18歳。 夏原の腕は良いし、先を見据えた戦闘をする。 まるで俯瞰から全てが見えているかのような飛行をする。 夏原の機体のマークはイーグル。ワシだ。 あのガキは夏原の機体を見てイーグルと言ったのだろうか。 しかし先頭を飛んでいたのは俺だった。
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