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「ありがとうございます。IYで整備してくれていたのは嵐という人です。」 「えっ嵐さん?」 「えっ知ってるんですか?」 「一時期嵐さんのもとで勉強させてもらっていたことがあります。」 「えぇ?」 「もう10年くらい前です。」 今の俺くらいの歳の頃だろうか。 IYを出発する時に嵐が言っていた。 俺が嵐もSTに来れないのかとごねた時だ。 「STには若くて腕のいい整備士がいる。心配するな。」と。 三崎さんのことだったのだろうか。 「いやあ、まさかとは思ったんだけど。垂直尾翼の形状がプロペラ後流の影響を考えられたものになっていて、嵐さんに付いていた時のノートを見直していたんですよ。」 「そうでしたか。嵐は三崎さんが俺の担当になると知っていたんですかねぇ。こんなオンボロでSTに行ったら笑われるぞと言っていました。」 嵐には「カイトを笑う奴がいたら殴ってやる」と言い返した。 「オンボロなんてとんでもない。」 「15歳の時に試験に受かって、与えられた飛行機なんです。それまではみんなもっとボロでガタガタの練習機に乗っていました。最初はちょっとでかくて慣れなくて、嵐にシートやペダルまでいろいろカスタマイズしてもらいました。それでもよく着陸の時にタイヤをダメにして怒られましたよ。」 ハハハ、と俺たちは笑いあった。 「俺も測定を忘れて、1週間スケールしか持たせてもらえなかったりしましたよ。」 「あはは、いじわるだなぁ。」 煙草を灰皿に捨てて俺たちは格納庫に戻った。 「油を触ってみますか?」 「はい。いいんですか?」 そう言いながら手を伸ばす。 「あまりわからないなぁ。」 俺は正直に感想を言った。 「でもきっと乗ればすぐに気がつきますよ。」 「操作性の問題はどうしたらいいでしょう?」 「訓練を重ねて慣れてもらうのが一番です。どうしても感覚を変えたくなければさっき言った通りです。機体に負担はかかりますが。」 「うーん。」 「春名さんのやりやすいように、させていただきますよ。」 「一度、飛んでみます。訓練でどうにかなるかなぁ。」 正直、自信がない。 俺は本当に嵐の整備に頼っていたから。
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