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未来光ハイツ114号 12月11日 午後11時29分11秒
男の手には50cmほどの日本刀が握られていた。大きく反った平均的な太刀の形状をするそれは年代を感じさせる古びた柄の部分とは裏腹に周りの景色を映すほど透き通った刀身を持っており、まるで戦国の世からタイムスリップしてきたかのようである。
その場面だけ見てしまえばまるで一般的認知とは真逆、まるで男や部屋の装飾、窓から遠くに見える高層ビルが時代錯誤のように感じてしまうほど、その刀は美しく、気高い。
「ふぅ……」
男の口から白い息が漏れ、どこか部屋の空気が圧縮されたように縮こまる。脚は部屋の中心へと向かい、板張りの床に描かれた丸い何かの上に乗った。
月光が照らす冷え切った部屋。掘り込みによって描かれた魔法陣は床だけではなかった。それぞれが重なり合い、混ざり合うように描かれ、床、壁、天井、机、本棚に並ぶ本にまで所狭しと線と文字は伸びている。
部屋全体がまるで何かを封じ込める箱のようだ。
「―――告げる」
流れる風は留まり、滞る。
それを裂くように男は太刀を右手で振り上げると、おもむろに自身の広げた左手へと振り下ろし、その刀身を後ろへと引いた。
血管が裂け、流れだしたおびただしい量の鮮血は飛び散り、男の指や腕から流れ落ちる。重力に従い床へと落ちた血液は刻まれた溝へと染み、しかし次は逆、重力を無視した速さで床を這う。それだけではない。紅は壁を上り、天井までも伸びていった。
「素に血とこの身を。礎に呪いと刻まれし軌跡を。祖たる、名も無き守人の悲願を持ちて」
月光のみが照らしていた部屋の中はいつしか赤い光にうっすらと明るんでいた。光源である鮮血は鼓動の様にゆっくりと点滅を繰り返し、男の顔を映し出す。
「幻想を打破し、風を含め。循環した未来を歪ませ、王冠へと収束す自己を民へと返さん」
淡々と口から放たれる
「閉ざす。閉ざす。閉ざす。閉ざす。閉ざす」
場が収縮する、しかしながらそれは断じて柔和化しているわけではない。むしろその逆、圧縮されたように魔力は空間すらも抱き込み圧縮、爆発的に空間の濃度は上昇していく。
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