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「――ちゃん!愁ちゃん!」
周防 愁は、その声で目を覚ました。彼が振り向くと、倉敷 弥生がむくれた顔をして彼の顔を覗き込んでいた。
「もう!疲れが取れないから、夜はベッドで寝てって、言ったよね?」
愁は、一階にあるアトリエの床で寝ていた。寝室は二階なのだが、疲れ切ってここで寝落ちしてしまうことが多いらしい。
ここは、周 聖光こと、周防 愁のアトリエ兼住居だ。愁は、世界に知られた画家で、彼の作品は高値で取引されている。
弥生は三日ほど前から、彼の家の家政婦、のようなことをしている。愁が弥生の実家の負債を肩代わりしたことにより、弥生は愁に雇われるようになった。それで彼女は、毎日炊事や洗濯などの家事をしにここに来ている。
何度か瞬きした愁は、ぼんやりした頭で返事をした。
「ん……」
「………」
「………………ねむい」
「寝ないで!十時には起こしてほしいって言ったの、愁ちゃんだよ!」
弥生は愁の肩を掴んで揺さぶる。だが、愁は目を閉じて動かない。
「愁ちゃ――」
愁が弥生の手を引く。
「うるさい」
耳元で愁の声。弥生は床に寝転がり、愁に抱きしめられた。
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