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「――しゅっ、愁ちゃん!」
弥生は愁の胸を押すが、腕の力が強くて抜け出せない。
「愁ちゃん!!」
「弥生、声でかい」
眠そうな声で愁は言う。だが、彼女はそれどころじゃない。
「愁ちゃん、離して……」
「なんで?」
「なんでって――」
弥生は言葉に詰まる。
ほのかに香る煙草。自分より高い体温。目の前には、厚い胸板。……自分の心臓が持たなかった。
「と、とにかく離して……」
すると、なんと彼はさらに力を込めた。彼女が戸惑い、うろたえると、愁が呟く。
「――弥生、抱き心地ちょうどいい」
優しい声で言われて、弥生はますますどうしたらいいのか分からなくなる。喋っていないと、どうにかなってしまいそうだった。
「私、抱き枕じゃない」
「そーか」
「そーか。じゃないっ」
「……」
「愁ちゃん?」
首を上げると、愁は目を瞑っていた。また本当に眠るつもりだろうか。
「愁ちゃん、寝ないで。起きて」
「んー……」
「起こしてって言ったの、愁ちゃんでしょ。いいの?」
「ん―――……」
愁がゆっくり瞼を開ける。至近距離で視線が絡む。眠そうな瞳はとても色っぽくて、弥生はドキっとしてしまう。
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