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「弥生」
「は、はい」
不意に呼ばれ、弥生は返事する。緊張して、声が裏返ってしまった。愁が口を開く。
「お前、結構胸あるな」
――――バシン!
弥生は愁をひっぱたいた。
「……ばか!!!」
そう叫ぶなり、弥生は部屋を飛び出していく。しかしそのドアは、またすぐに開き、彼女は言った。
「ご飯、できてます!!」
そしてまた、荒々しく扉が閉まった。
愁は体を起こす。その時、自分の体に掛けてあったタオルケットが落ちた。
起こす直前に掛ける必要はないから、おそらく弥生は、アトリエに居た俺の様子を見てタオルケットを掛け、飯の支度をして俺を起こすために戻って来たのだろうと、彼は思った。
愁は頭をかく。寝ぼけてはいた。しかし、全く起きていない訳でもなかった。何をしたのかも、彼ははっきり覚えていた。
懐かしい夢を見た。起きたら弥生の顔がすぐ近くにあったから、嬉しくて、つい抱きしめてしまった。
気づいただろうか?でも、あれで気づいてくれたら苦労はないのだが。『やってしまった』という気持ちの方が強くて、最後は誤魔化してしまったし。
愁は自分の掌に視線を落とす。
――小さい肩、細い腰、それに何かいい匂いがした。
愁は思ったことを打ち消すかのように、首を振って、立ち上がった。あんまり遅いと、またどやされそうだ。
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