第11章 そのままの君でいて

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大きな猫みたいに力任せにぎゅうぎゅう頭と身体を押し付けられて途方に暮れる。この人、一体何の話してるんだろう? 「俺に合わせたり自分を無理に変えたりしないで。そのままの夜里さんがいいです。だって、俺はあなたがどんな人なのかずっと見てきて知ってるから。いつも安心して落ち着いて、お腹いっぱいで満ち足りていてほしいんです。…そういうあなたを見ていたいだけなんです。だから」 「…変わらなくて、いい?」 「うん」 小さく呟いてわたしの向きを変え、正面から顔を近づけて唇を重ねる。柔らかく探る深いキスを受けながらぼんやりと考えた。 よくはわからないけど。多分、今の生活とかやり方を変える必要はないって言ってるのかな。つまりはクラブでのプレイなんかはそれはそれ。自分はそれに参加する気はないけど、わたしは今まで通りそれで満たされて欲しい。その上で時々こうして二人で会って、彼を受け入れてくれたらそれでいい…、って、こと? 正直なところクラブについては少し迷いがなくもない。高城くんとのことを経験してしまったら。あんな闇雲な無茶苦茶なことを身体に強いたりしなくてもこんなにいいと思えるものがある。それを知ったのに敢えてあんなこと、続ける必要があるのかなって。 でも。少しずつ冷静さを取り戻しつつある頭で何とか考えをまとめようとする。高城くんは今までのまま、このままのわたしがいいって言った。彼のために何かを変えることは求めてない。あの場所であんなことをすることも含めてのわたしなんだから。 …確かに。わたしの頭の後ろで理性が囁く。こんなこと、いつまでも続く訳ない。社会人になって仕事も忙しくなって、彼の世界もこれからがらりと変わる。そんな中で高城くんと肩を並べるに相応しいきちんとした女の子と出会う機会だってあるだろう。わたしみたいなもので良しとしてるのは、今までの狭い世界の中での話。たまたま光の少ないひと気のない片隅に咲いてる奇妙な花が珍しく、魅惑的に見えてるだけで、常識的な場所に住むようになればやっぱりバランスの取れた正常なものが何よりだって考えるようになるに違いない。 だったら、高城くんがここにいるのもほんの今だけのことだし。そのために全部を断ち切って一人きりになったあと、彼までいなくなって取り残されたら。わたしには何にもなくなっちゃう…。
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