第12章 もう逃げられないのかも

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明日からわたしには会社だけ。毎日朝起きて、出勤して、そのまま帰宅する。週末は…、そう、今日のあれで嫌われてなければ、もしかしたら。高城くんが時々会ってくれるかも。デートにも連れてってくれる。まるで恋人ごっこみたいな楽しい一日。ほんの少し、無機質な生活に色を挿す彼の存在。今だけかもしれないけど。 でも。わたしには加賀谷さんがいない。 すうっと血の気が引く。大学に入って訳もわからずこんなことに巻き込まれて投げやりになっていたわたしに身を守るよう厳しく言い渡し、ずっと見守ってくれていた。何かあったらいつでもこの人のところへ駆け込めば必ず力になってくれる。わたしを見放したりはしない。そう思って会えない時もずっと何処かで身体の重みをかけて常に寄りかかっていた。絶対助けてくれる。わたしを粗末に扱う人間を許したりしない。そう信じてたから安心して過ごしてこられたのに。 「わたしが、ここを辞めたら。…加賀谷さんもいなくなっちゃう。わたしのそばから」 彼が顔を上げて振り向いた。その口から呆れたような声がわたしに投げかけられる。 「お前阿呆じゃないの。ここを辞めたくらいで俺の世話焼きから逃れられると思うなよ。クラブに来なくなったら別に外で普通に会えばいいじゃんか。今までと何にも変わらないよ」 わたしは毛布から顔だけ出してそちらを見やった。 「…そうなの?」 彼は肩を竦め、さっさと再びパソコンに向き直った。背中からぽんぽんと矢継ぎ早に言葉が飛び出してくる。 「当たり前だろ。第一俺はお前がここの会員だからお節介してたって訳じゃない。ここに紹介したのはお前の状態を考えて、クラブに属してた方が守りやすいって考えただけだ。必要なくなれば辞めて、ここを介さない普通の知り合いになる。それで問題ないだろ」 「…そうなのかな」 わたしは毛布の端をぎゅっと掴んだ。 「だけど、そんなこと。加賀谷さんに何のメリットがあるの?学生サークルの方からクラブの女の子を調達して、心身のメンテナンスをしてるから面倒見てくれてるんだと思ってた。わたしが辞めちゃったら何の利害関係もないじゃない」 彼は素っ気なく背中で答えた。 「理由なんかないよ。そうしたいからするだけ。今まで通りお前は変なことを仕掛けてくる男に注意すること。後ろ盾がなくなったなんて考える必要ない。その手の奴は即刻首の根をへし折ってやるから。
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