第12章 もう逃げられないのかも

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それは今までと同じだ。別にクラブに所属してるって理由で夜里を保護してきた訳じゃないから。これからもお前を放っとく気なんかない。時々外で会って近況を報告しろ。お前に接近する奴は全て身元確認する必要もあるから、そこは正直申告でな」 わたしは事態が飲み込めず頭がぐるぐるした。…そうなの? 彼はわたしの返事のあるなしに拘泥せず、平坦な声で続けた。 「俺が承認しない男とは付き合うな。お前はどうもその辺危なっかしい。深入りする前に早めに打ち明けろ。一回や二回、関係したからって投げやりになるなよ。そんなことでお前を思い通りにする権利なんか誰にもないからな。相手の顔が見えるようになってもそれは変わらないんだ。夜里は夜里だけのものだってことは」 不意に彼の声が柔らかくなり、仄かな温かさが滲んだ。 「でも、よかったな。やっぱり必要なことだったとは言え、お前がここを抜けてくれると少しほっとするよ。安全に気を配ってはいたし男性会員の身許は厳選してるつもりだけど、不特定多数にお前の身体を晒し続けてたことは事実だから…。こんなこと、いつかは終わるって自分に言い聞かせてはいたけどちょっと気が気じゃなかった。…あ、でも、やっぱりまだこれなしじゃ無理ってことになって舞い戻る時はちゃんと正直に言えよ。俺に遠慮して自分一人で何とかしようとするな。ここで解消するのと外の世界でいい加減な奴らとするのは別次元のものだから。それはそれでちゃんと受け入れるから、変に気を回さなくていい。戻りたければいつでもお前の帰る場所はあるから。…他の会員にはお前は体調不良でしばらく休会するって伝えとくよ」 「うん。…そうだね」 わたしは毛布にくるまり、目を閉じた。 そんなことになる可能性もあるのかな。例えば高城くんがやっぱりこんな女は無理、とても付き合えないって思うようになったら。てかそうなる確率はすごく高いとは思うけど、そうやってまた一人になったらわたしは孤独に耐えられなくて、心を塞いで満たすためにここに戻るの? 目の前のことから気を逸らせて痛みをごまかすために? 毛布を頭から被り、力なく首を振った。何だかそんなことにはならない気がする。一度醒めてしまったこの麻酔は、もうわたしには効果がなくなっちゃったかも…。 溢れてしまったミルクをコップに戻すことはできない。多分いろんなことが元通りにはならないだろう。
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