第12章 もう逃げられないのかも

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しばらく身体を休めて少しうとうとし、仕事がひと段落ついた加賀谷さんに揺り起こされてシャワーを浴びる。だいぶ人間らしい気分を取り戻してさっぱりし、自分の衣服をきちんと身につけて髪を整えた。例によって化粧はしない。あとは家に帰って寝るだけだから。 「…いや、いいから。お前はここで仕事続けてろ。ちゃんと責任持って送るから。…大丈夫だ、心配するな。…余計なお世話だよ。自分の心配してろ。…じゃ」 普段よりかなり抑えた声でごもごも電話とやり取りしてる加賀谷さんの背後から近づく。電話を切って振り向いた加賀谷さんの目の中に微かな怯みみたいなものが仄見えた。 「誰と話してたの?」 「別に、仕事の話だよ。お前は関係ない」 素っ気なくきっぱりと言い渡し、パソコンを閉じて立ち上がる。わたしの背中に軽く手を添えて部屋の外へと促す。 「さ、帰るぞ。忘れ物ないな。…まぁ、何かあったら俺がちゃんと預かっとくけど。お前はもうここに取りに戻る必要はないよ」 今日は加賀谷さんの車、彼の運転で帰る。助手席に座って不思議な感慨を覚えた。もう二度とこうして深夜にあのクラブから一緒に帰宅することはないのか。一瞬感傷的になりそうになって思い直し座席に背中を沈める。まあでも、彼の言葉を信じるならこの車に乗るのが最後ってことはないだろう。きっと一緒に行動する機会だってこれからもある。 だけどこの時間帯にこの道筋、この車窓の眺め。こんな空気はもう二度と味わうこともないんだろうな…。 「ところで、お前。なんか忘れてることないか。ここを辞めたら本気で二度と俺の顔も拝まないつもりでいたみたいだけど」 静かな車内の空気を破るように加賀谷さんが不意に口火を切る。わたしは話の方向が読めずぼんやりと彼を見やった。 「夜里、俺にまだ借金残ってるぞ。奨学金の残り。返済終わってないから、一応念押しとくと」 「げ、そうだった」 わたしは跳ね上がった。しまった、完璧に忘れきってた。 学費に関しては完全に自己責任で進学したので、半額の給付金を除いた残りは貸与で賄った。卒業後、そのことを知った加賀谷さんが利子を払うのは勿体ないと言って立て替えで一括返済してくれて、その分をクラブからもらう謝礼から少しずつ毎月返済してたんだった。差っ引かれた残りが振り込まれる方式だったから、あんまり意識してなかった。 「そうか、まだ結構残ってるかな?
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