第11章 そのままの君でいて

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「夜里さん、もしかしたらこうしていても退屈じゃないかなと思って。一緒に買い物して夕食作って、ってそれだけじゃ。俺に気を遣って合わせてくれてないですか」 わたしはよく意味がわからず戸惑った。とりあえず本心から思ったことを素直に伝える。 「ううん、全然。高城くんとこうしてるの、楽しいよ。わたし誰かと料理して一緒に食べるとか本当に今までなかったから。すごく新鮮だし」 口にしてからああ言っちゃった、とちょっとほぞを噛む。またこうして可哀想なコミュ障振りを晒してしまった。この上高城くんがわたしに哀れを催して、更なる同情を呼ぶような真似を敢えてしてどうなる。 それにしても。わたしは口にスプーンを咥えてしばし考える。こっちが退屈かどうかなんて何で気に病むんだ?彼はわたしのいい加減な食生活を見るに見かねて、せめて週に一度はまともなものを、って言うんでわざわざ顔出して一緒にご飯を作ってくれてるんだよね?勿論わたしは楽しんではいるけどそれは結果そうなってるに過ぎない。栄養のあるものを用意して摂取するのは別に娯楽って訳じゃ…。 少し会話の途切れた食卓の上で、綺麗な手つきで食事を進める高城くんのすんなりした長い指と手の甲を何となく眺めながら思索を続ける。 彼がこんなにもわたしの健康状態を気にするとは予想外だった。俺がいない時もなるべく野菜や果物でビタミン、それと蛋白質も忘れず充分取り入れて下さいねと遠慮がちながら忠告してくる。レシピも頭に入れ基本の調理方法も短い期間で真剣に叩き込んできてるのは一目瞭然だし。お家の方、急に料理に興味を持ち始めた彼のことをどう見てるんだろう。当然何処か家の外で腕を披露してるって気づくよね。まさか男友達連中に振る舞うために張り切ってるとは思わないだろうから…、彼女ができた。とか。 そこでふと初めて気になった。この人、決まった相手はいないのかな。 改めて彼をそっと観察する。涼やかな外見、冷静な落ち着き振り、頭の切れそうな様子。それでいてこうして親しくなると案外と感情表現も豊かで可愛いげもある。普通に考えたら女の子たちが放っとくようなスペックではない。 それでももし、実際に恋人がいないっていうんなら(まぁ、いるのにわたしとあれをしてるんなら多分浮気の範疇に入っちゃうけど)やっぱり仕事の特殊さが影響してるのかもしれない。
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