第12章 もう逃げられないのかも

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そしたらもう俺たち二度と夜ちゃんに会えないのか?って思ったらさ。全然そんなの容認できない、耐えられないよ。今更夜ちゃん無しの生活なんてさ。ただでさえ月に一度か二度の君に触れられる機会を大切に大切に考えてきたのにさ。急に辞めちゃうなんて、自分勝手じゃないかな。残される俺たちのこと、考えたことある?」 わたしを抱え上げて靴を脱がせようとする。触れられるのが嫌でやむなく自分から脱いだ。彼らも各々靴を脱いで上がり込み、床やらテーブルの前やら所狭しとひしめくように座る。わたしは二人の男に挟まれるようにベッドの上に座らされた。背中が半端なく冷やりとする。 無傷で乗り切るのはやっぱり厳しい状況かな…。 それでも僅かな望みにかけて、わたしは落ち着いた柔らかい声を出した。この人たちを敵に回したと思わせてはいけない。 「辞めるなんて言った覚えないですよ。クラブの方にも休会届けを出しました。だから、体調が回復したらちゃんと顔出します。それまで待って頂けたら、また」 「夜ちゃんの部屋、こんな感じなんだね。案外殺風景だな、年頃の女の子の部屋なのに。まぁ、夜ちゃんらしいって言えばらしいな」 男たちは気が逸れて辺りを見回し始めた。初めて見るわたしのプライベートな空間にやや興奮してる気配が生じてる。内心で舌打ちしたい思いだった。あまりいい兆候ではない。 だから部屋に入れずに済ませられたらよかったんだけど。外でどんなこと言い散らされてもそこは何とでもなったのに。他人の耳が気になったというより四人がかりの力ずくで連れ込まれた状態だったからどうしようもなかったことは確かだが。 一人がわたしの目をまっすぐ覗き込んで語りかけた。 「今回のことで痛感したんだよ、夜ちゃん。僕たちはもう君無しなんてあり得ない。今はただの休会でも、いつかは夜ちゃんもクラブを離れようと思う時が来るだろ。そうなったら僕たちには君を追いかける手段もないんだ。…あのクラブは個人情報には相当厳しいからね。黒服やスタッフを抱き込んでもそこから君の情報は取れなかった。だから、興信所に君のことを調べてもらうようわざわざ依頼したんだ。さすがに結構日にちがかかっちゃったけどね。苦労したよ、ここまで来るには。実際」 何とか隙を見て自分のスマホを手にできないかな。やっぱり一人で歩く時は手から離しちゃいけないものなんだな。そんなことをぼんやりと考えてた。
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