第11章 そのままの君でいて

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でも本来の彼の好みは男たちの集団にかきたてられてあられもなく乱れるわたし。だからクラブでのわたしのその姿を目に焼き付け、こうして二人になると脳裏に思い浮かべつつ激しく欲情して求める、ってサイクルになってたとしたら…? 食べ終わって笑顔で手を合わせ、各々食器を流しに運びながら内心では難しい顔で唸る。それならあんなわたしを見たあとでも好意的な態度が変わらない理由の説明はつく。単にそういう女だからと認識してるってだけじゃなく、そんなわたしが彼の性欲の対象、どストライクなのかも。もしそうなら、わたしはあのクラブ、辞めずにこれからも通って彼の目にエッチな悦びを与え続ける方がいいのかな…? などと馬鹿な考えで頭の中がぐるぐると一杯になってるわたしに、彼は全然明後日の方向から声をかけてきた。 「夜里さん。…俺、そろそろあそこのバイトの日数減らそうと思ってるんです」 ちょっと間が空いて、彼がクラブでの黒服の仕事の話をしてることがやっと飲み込める。…え? 高城くん、バイトだったの? まずそこから驚愕してるわたしを置いてきぼりに、彼は洗剤を泡立てたスポンジで皿を洗いながら何でもないことのように平然と続けた。 「卒論も本腰入れないとやばいな、って最近ちょっと焦り始めて。もっと以前から計画的に進めてればよかったんですけど。それに、内定もらった会社からもちょくちょく呼び出しがかかったりとかあるし…。あそこの仕事はほぼオールナイトですから、夜だけとはいえやっぱり案外きついですからね。今は週三入ってるんですけど」 「…学生さん、だったんだ」 わたしは頭が真っ白になりかけて心の中の驚嘆がだだ漏れになり思わず呟いた。高城くんが意外そうな顔をこっちに振り向けたのがわかる。 「知ってると思ってた、夜里さん。だって俺、ガキっぽく見えないですか。年相応どころか未だに高校生に間違われることありますよ。タッパだけは百八十近くあるんですけど。まぁ高校生でもそのくらいある子は一杯いるから…。顔が駄目みたいですね、どうにも」 わたしは彼の、髭の剃り跡ひとつない滑らかなすべすべの顔を見やった。そう言えば初めて会社の近くのコンビニで待ち合わせてこの顔を見た時、高校生…、じゃないよね?加賀谷さんの親戚の男の子が駆り出されたのか?って訝ったのを改めて思い出した。 「…そっか…、でも」 わたしは努めて落ち着いた声で話しかけた。
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