第11章 そのままの君でいて

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「高城くん、すごく落ち着いてるから。最初は確かに若く見えるなぁと思ってたけど、だんだんそれは気にならなくなってた。頼り甲斐があるし、いつも冷静だし。…それに、加賀谷さんにも信頼されていろいろ任されてるみたいだし。学生さんのバイトとは…」 思わなかった、との言葉を飲み込む。そう、加賀谷さん。 わたしが初めて出張デートの依頼を受けた時、確か一番信頼の置けるしっかりした黒服をつけるからと言っていた。それでやってきたのが高城くんだった。思えば篠山の奴の件のときの警護だって、二週間ずっと毎日彼が来ていた訳だし。つまりは加賀谷さんが尤も安心してわたしを任せられると判断した人間が高城くんってことになる。 それがまさかの。フルタイムですらない、週三勤務の学生バイト。就職する会社の内定も既にもらった、卒業を控えた大学四年生とは。 高城くんは面映そうに肩を竦めた。 「マネージャーからすると俺は便利に使えて何でも頼みやすいと思われてるんじゃないですかね。それと多分、学生としては内情に通じてるってとこが買われてるんだと思います。夜里さんも以前は所属してた学生のサークルの方のクラブがあるでしょう。◯◯町のマンションのペントハウスの」 わたしはまじまじと彼の横顔を見つめてしまった。いろんなことが次々出てきて全然頭がついていかない。 彼は当たり前のことを説明するように淡々と続けた。 「あそこ、今は俺が基本的に管理してるんです。以前はマネージャーがやってたみたいに、昼間誰もいない時間帯に部屋に行って点検したり手を入れたり、監視カメラもチェックして。それで何か問題が発生したらマネージャーに知らせて対処してもらうって流れですね。彼ももうそこまでは目が届かないんで…。まぁ、卒業するまでの間だけですけど。俺が就職する会社は普通のフルタイム勤務だから、あんな風に時間の融通も利かないですし。そのあとを誰に任せたらいいのかぶつぶつ零されるんですけど、そんなこと言われてもね。こっちはこっちの人生がありますから」 思わず頭に浮かんだ疑問がそのままストレートに口を衝いて出る。 「高城くんも、あっちのクラブの会員なの?」 彼の表情にややばつの悪そうな色が浮かんだ。 「…いえ。今は、その、…違います。入学してしばらくの間はそうだったんですけど。割と早くにこっちでのバイトに入ることになって。
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