21人が本棚に入れています
本棚に追加
それ以後は向こうでの会員って立場ではなくなりました。単にスタッフとして関わるだけですね、つまりは」
何だか弁解するような口調になる意味がわからないけど。わたしは首を傾げて素直に頷く。
「そうか、あっちのクラブから黒服として引き抜かれる男の子たちがいるって聞いたことあるな。高城くんがそうだったんだね」
彼は頷き、食器を洗い終わった手の水気を切って布巾で拭った。
「俺が入学した時にはもう、夜里さんはあっちのクラブから抜けてこっちに移った後でした。だから所属時期はダブってはいないんですけど」
「ああ…、三年に上がって割とすぐにもうあっちは抜けたから」
冷静になって考えるとわたしは今二十四歳、大学を卒業して社会人二年目だ。最初の印象で高城くんのことを絶対歳下って感じたんだから、一個下でも卒業して間もない社会人一年目。普通に考えたら大学生でおかしくない。あまりにも落ち着き払った大人の態度に騙されて、プロの黒服(しかも現場のチーフに近い立場)と思い込んでいた。それどころか若干裏の世界の匂いがするとまで考えてたもんね、思い返すと。実態はちゃんと就職活動を終えてこれから社会人になる準備をしてるきちんとしたご家庭の子息だった。わたしの人を見る目なんて本気で当てにならない。
「そしたらこれから忙しくなるんだ。四年生の後半って何かとばたばたするもんね、確かに。…こんなことに付き合わせるのもそろそろ」
「あの、そうじゃなくて。…違います、全然逆の話なんですけど」
高城くんは急に慌てたように早口になってわたしに向き直って訴えた。
「バイトは減らすから。時間に余裕もできますし、もしよかったら今よりもう少し…、その、時々会えたらなって。いつもこの部屋で会うだけじゃなくて。二人で何処か出かけたり。…なんて、駄目ですか」
「はぅ」
なんで?…って訊いたらいけないのかな。と躊躇って疑問を飲み込む。別にそれは構わない。わたしの方は、だけど。
「でも、いろいろ時間が足りなくなったからバイトを減らすんでしょ。卒論もあるし。そんなことしてたらいけないんじゃない?」
遠慮がちに問いかけると彼はちょっと弱ったように目線を泳がせた。
「それは、まぁ、…そうなんですけど。でも息抜きだって必要だし。夜里さんと会うくらいは大丈夫じゃないかな、と。そんなに毎日会ってもらえる訳じゃ…、ないでしょうし。
最初のコメントを投稿しよう!