第11章 そのままの君でいて

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夜里さんだってお仕事あるし」 わたしは口を噤んだ。まあ、そうね。別に週に一回かそこら、ちょっと一緒に息抜きに出かけるくらいなら。目くじら立てるほどのことじゃないのかもしれない。 わたしが引っかかるのは本当はもっと別のことだ。高城くんみたいな将来のある男の子がわたしなんかにかかずり合って無駄な時間を過ごしてていいのかな。今までは彼のことをクラブの専従のスタッフ、本職の黒服って漠然と考えてたから何となく裏の世界の同類みたいな気持ちでいた。密かな仲間意識を感じていなくもなかったけど。 ここは彼にとってはほんの僅かの間だけの居場所、これから明るい広い世界に出ていくんだ。こんな後ろ暗い部分を抱えた女とこれ以上関わってもしょうがないんじゃないかな。もっと彼に相応しい、ご両親にも堂々と胸張って引き合わせることのできる可愛らしい清潔な女の子と一緒に前向きな関係を築いた方が…。 「駄目かな、夜里さん。そんなの興味ない、か。…夜里さんいつも仕事で疲れてるし。俺なんか別に、一緒にいて楽しいとこなんて何もないし…」 自信なげな声が耳に届き、自分一人の思いに沈んでいたわたしは急に我に返る。お皿を拭く手許に意識を集中しつつ、慌てて隣の彼の顔を横合いから見上げた。 「そんなことないよ。こうしてるのいつも楽しいし。高城くんこそわたしなんか…、もっと、同世代の女の子ととかさ。話も合うだろうし、明るくて元気な子と一緒に遊ぶ方が。何もこんな…、地味だし。面白みもないし。大した個性もないし」 セックスくらいしか取り柄もない。考えようによっちゃそれだって、却ってマイナスだ。経験が豊富で身体がこなれてることなんか長所とは取られないかも。むしろ、綺麗な初々しい身体の方が誰だって、付き合う相手としては望ましいと思うだろう。 彼の手がそっとわたしの手に触れた。どくんと心臓が大きく鳴る。わたしを脅かさないよう、丁寧に皿を受け取ってそっと棚にしまってからおもむろに全身を包むように抱きしめた。 「そんなこと。…絶対、ない。夜里さんは世界に一人だけでしょう。似たような、代わりになる人なんて何処にもいないよ」 そう囁いてから両手でわたしの頬を挟み、まじまじと顔を見つめてから引き寄せて唇を重ねた。熱っぽい甘いキスの後、ねだるように懇願する。 「夜里さん。…今日、これから一緒にシャワー浴びませんか。
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