蔵の扉半分

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「いい加減にしろ!!お前がアレを作ってないのは分かってるんだ、形も味も悪いし隣の爺さんも違う」 「――そう言われてもワシが作った卵焼きであの日は上手く焼けたん…」 「黙れ!これ以上隠すなら……うん?鼠が聞き耳を立てているな」  咄嗟に『見つかった!』と気づいた私は、そのまま起き上がって走ろうとしたが、身体がゆっくりと宙に浮き蔵の中へ引きづり込まれてゆく。  自分の意志と全く違う動きをするので、初めは必死にもがこうとしたが、抵抗しても無駄なのと警察を呼んで解決する内容ではないと思い知らされた。 『どうしよう――妖怪とか悪魔の消印とかだったら絶対勝てないじゃん!』  まず目に入ったのは伊織の『なんで来たんだよ!』と言わんばかりの怒った顔で自分がやった行いを後悔するように下を向いた。  同じく住職の悲しい顔を見ると、心配していたとはいえ勝手な事をしてしまったと反省せざるを得なかった。 『……ごめんなさい、こんな事なら家でジッとしてるんだった』  コスプレの前に到着すると緑がかった瞳に白い肌、細身な身体だが手や足はしなやかに伸びていて気品がある。 ハーフ……というより本物の王子様かもしれないと見惚れていたが、指をスナップすると地面に落とされ、お尻をぶつけて顔を顰めた。 「……イタタタ」 「娘、お前はあの黄色の料理を作った奴か?」  伊織も住職も何故か卵焼きのことを隠していたので、ここは黙秘を続ける方が賢明だと悟り口を結んだ。 「…言わないと耳を引きちぎるぞ」 「私ですっ!!」  リュックからタッパーを探し、証拠の品としてコスプレの前に差し出すと、満足そうに眺めてから一口頬張っていた。 「……これだ。あの時は三本しかなかったが、本来は六本なのか」 「ええ……切り方にもよりますが、あの日は六本で伊織が半分食べたんでしょう」    作ったのが私だと分かると、伊織は解放されコスプレも呆気なく消えていき一件落着だと思ったが、納得いかない表情をしていたのは住職だった。 「良かれと思って言ってくれたのは分かってます。ただアイツは魔術を使う世界の者で、外に出してはいけないんですよ」  伊織達はお札が仕上がるまで時間稼ぎをしていたようで、私が余計な事をしてしまったのは間違いなさそうだ。
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