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王子と学生を半分
「奴は凛ちゃんの卵焼きに固執しておったから……札が出来次第家に持ち帰り貼っておきなさい」
「……余計な事をしてスミマセンでした」
脅された時の『耳を引きちぎる』というフレーズが残り、顔に似合わず恐ろしいとインプットされている。
「いや、タチは悪いと聞いてるが、本来はそんな乱暴じゃない筈だし……今夜からは俺が寝泊まりするから安心しろ」
「……ありがと……えっ?!」
サラリと会話に入れてきたので違和感なく聞き流すところだったが、さすがに心の準備――というか逆に緊張して眠れなくなりそうだ。
「大丈夫だって!隣だから距離近いし、何かあったらすぐ電話するから」
住職も家の前まで見送ってくれ、心配いらないとアピールを続けると渋々帰って行ったが、本当はかなり怖い。
さっき迷惑をかけたばかりだし、伊織の怒った顔が浮かんできて頼みづらいのも手伝っていた。
まずは暖かいシャワーを浴びてパジャマに着替えると、一階の応接室から音がしたのでモップを片手に階段を下りた。
『大丈夫……怖いと思ってるから余計にそう感じるんだ』
自分に言い聞かせドアノブを回すと、暗がりでよく見えないので入口近くの電気をつけた。
心臓がバクバクしてるのが分かるし、もし泥棒でもいた場合、スマホも持ってない間抜けな状態も今更ながら反省している。
『パチッ』と部屋のライトを点けると、誰もおらず思わずしゃがみこんだが、指のスナップ音が聞こえると大理石のテーブル前のソファに足を組んだコスプレ君が座り、後ろには執事らしき男性の姿まで見えた。
「なっ、なっ、なっ……!?」
「中々いい所に住んでるな、部屋数はウチより少ないが家具の趣味や食べ物のストックや調味料もいいセンスだとじいも褒めていた」
あまりにも堂々としていたので、こちらがお邪魔したと一瞬錯覚するほどだ。
私が固まって膝を床につけてるのに、執事は気に留めない様子で王子に紅茶を渡すと足音を立てず私の目の前にもカップを置いた。
「冷めないうちにどうぞ……」
「……はい、恐れ入ります」
驚きすぎて喉が渇いたし、なんとなく手にとり口にふくんでいた。
ラズベリーの香りとレモンの酸味が混ざったような珍しい味のハーブティで、後味はすっきりしていて飲みやすかった。
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