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休みの前の日になると、ダルがクッキーと紅茶を持って遊びに来てくれるようになり、エルメも一緒なので色んな話をするようになっていた。
両親や部活、ハマってる小説のや魔法の事……。
エルメはマジック風に魔法を見せてくれたり、日常的に練習してたと聞いてると私も興味を持ち始め、おまじないの言葉を教わったりもした。
出来ないのは分かっていたが、お守りを作って身に着けたりするだけで、違う世界の文化を知ったようで嬉しく思える。
伊織ともすっかり仲良くなり、幼馴染も三人に増えたようだった。
楽しい時は永遠に続かないと分かっていたが、今を楽しむと決め、帰りに買い食いをしたりダルが用意した苗を植えたりーーエルメの存在が大きくなりかけると前触れもなく二人が姿を消した。
寺の周りや近所、私の家も隈なく探したが、まるで初めから居なかったように痕跡すらない。
蔵の中から巻物も無くなっていて、住職に相談もしたが『これで良かった』と円満なフィナーレを迎えた主人公のように晴れ晴れとした表情をしていた。
「黙って居なくなるなんてズルいよ……他の子は記憶を消されてるのに、私達だけ覚えててもショックなだけじゃん」
「なんだよ、アイツに惚れてたとか言うなよ?そもそも住んでる世界が違うんだから仕方ないだろ」
理屈では分かっていても住職や伊織みたいに『はいそーですか』とアッサリ納得できないまま時間だけが過ぎていった。
巻物も消え実は夢を見てたんじゃないかと思い始めた頃、花壇に綺麗な花が咲いていて足が止まった。
『……これ、ダルと一緒に植えたヤツだぁ』
ラズベリーみたいな香りなのに、見た目は小さい薔薇のように可愛くて、思わず見とれる程美しい。
「――やっぱあいつらって居たんだよな」
背後から歩いてくる伊織に頷くと、一緒に家に入ってお菓子を食べる事にした。
「でも、エルメ達が居なくなってから反省蔵に入る回数がグッと減ったよね」
「――まぁな、俺だって成長したんだよ。今ならお経で魔法にも勝てる気がする」
すぐに調子に乗る所は玉にキズ……だが、彼のおかげで私も少しずつ元気が出てる気がしていた。
伊織が帰った後、シャワーを浴びパジャマに着替えると使ってない筈の応接室に明かりが灯っていたので、モップを持って部屋に向かった。
中から音はしてないが躊躇わず思いっきり開けてみた。
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