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蔵の扉半分
「――もう、また何かしたの?」
蔵の扉が半分ほど開けてある時は、幼馴染の伊織(いおり)が悪さをした時に息が出来る様にだ。
寺に生まれたにも関わらず、手伝いを全くせず、高校一年生になってもサッカーに情熱を注ぎ花瓶や仏像に傷をつけてはお爺ちゃんに『反省部屋』に閉じ込められている。
柱に括られている間は飲食が出来ないので、悔しそうな顔でお腹を鳴らしてるのが可哀そうになり、いつの間にか差し入れのおにぎりと卵焼きを持って行く役に回ってる私も、住職に見つからないように辺りを気にする始末だ。
「いつもワリ―な、爺ちゃんすぐ怒るから。今回は小さな仏像に掠っただけなのに……」
「家でサッカーはダメだよ!伊織の所は大切な仏像沢山あるんだから罰が当たるよ?」
「へーへー、命の恩人の凛(りん)様には口答えできませんからね」
縄を解いてウエットティッシュを渡すとラップに包んであるおにぎりに手を伸ばし、卵焼きを頬張っている。
制服のままなので帰った直後から今まで閉じ込められてたに違いない。
私は部活を終えて帰り道に寺を横切ると、蔵のドアが視界に入ってしまい現在に至る――。
伊織とは隣に住んでいて幼稚園からのくされ縁……父はIT関連の会社に勤めていて海外も含めて転勤が多いが、今回のシアトルへは私が高校生になったという理由で母もついて行ってしまった。
「凛、今日も夜ご飯まで待機させてくれよ。お前んち洋館で広いし部屋余ってるだろ?」
「――あのね、私まで同罪になるのは御免だからね。差し入れ持って来てるだけでもヒヤヒヤしてるんだから」
「大丈夫だって。見つかったらお前は関係ないって証言すっから」
意地悪なウインク顔に『これにいつも騙されるんだよね…』と思いながら蔵の外に出ようとした。
「――うん?この巻物、紐が解けてる」
黄緑の筒状の紙には紫の紐が縛ってあるが、蝶結びの部分の縛りが甘くなっている。
「ねぇ、その箱から落ちたんじゃない?」
巻物の隣にはお札がついた木箱があり、どう考えても伊織が閉じ込められた時に暴れて当たったと思われる。
「やべ…札が外れてるし、こりゃ爺さんに又怒られそうだな。せっかくだから中を拝んどこう」
「ちょっと!早くお爺さんに伝えた方がいいよ…本当にマズい気がする」
鳥肌が立ち直感的に触らない方がいいと感じ、巻物を奪い取った。
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