プロローグ

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 また同じ夢を見た。  夢の中のあの女(ひと)は幼い俺に何度もこんな風に言って聞かせた。  けれど現実ではもちろん、夢の中でさえ俺は"ママ"  と呼ぶ事は無かった。  どうしても呼べなかった……  嫌いだ、とあの女が言っていた名前。  俺にはとても美しい名に思えていた。  その名を思い浮かべるだけで、今でも胸に甘く苦い痛みが走る。           あの夏の夜から十年が経った。                            ……菊野(きくの)……  貴女は、あの夜の出来事を、覚えているのだろうか――
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