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「菊野……?」
剛が怪訝な顔を向けるが、私は何事も無かったかの様に声をかけた。
「朝御飯、出来てるから……
ご飯とパン、どっちがいい?」
「菊野さ――」
彼が何かを言う前に、リビングのドアを開け放し、私は背を向けてキッチンへ行く。
身が切られる様に痛くて、辛い。
でも、あのまま彼に身を任せて抱き締められたままでいたら、また私は……
「お~!剛い!おっはよ~」
真歩が片手を上げて彼に声をかけると、剛は礼儀正しくお辞儀をした。
「おはようございます」
「ん~今日もハンサムね~!
どう?高校生活は!?ラブレター何通貰った?
校舎裏へのお呼びだしとかあった~?」
「……そんなもの、ありませんよ。
もしもあったとしても、俺は興味ありません」
剛はカウンターに腰掛けて、私をチラリと見る。
目が合って、危うくカップを落としそうになるが、彼の手が私の掌ごとカップを持って支えた。
触れ合う手。
このまま離したくない――と一瞬頭の中を掠める。
けれど、彼は私を見詰めたままでカップを取り、私は自分の手を離す。
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