愛憎

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「行ってらっしゃい……」 彼をいつものように追い掛けようと足を踏み出すが、思い直しその場から声を掛けるだけにした。 返事はなく、ドアの閉まる音がして、彼が行ってしまったのだ、と私は悲しくなる。 でもこれでいい。 今までと同じ様に接していたら、いつまでも彼から離れられない―― 私の素っ気ない態度に、彼はなんと思っているだろうか。 二人きりになったときに、あの鋭い瞳で私に詰めよって来るだろうか。 そうしたら、一体どうやって彼から逃れればいいのだろう? (いっそのこと、当分祐樹と一緒に寝ようかしら……) 二人きりにならない方法の一つとしてそんな考えが浮かぶが、私は溜め息を吐いた。 独立心が芽生えてきた祐樹が、母親と今更一緒のベッドで眠る訳がない。 私の事をいつも気にかけてくれる子だけど、いくらなんでもそれは嫌がるだろう。
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