アイ・ラブ・ユーを投げ捨てろ

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 ◇◇◇    手をどんなに伸ばしても届かないと知りながら、それでも伸ばす。そんな気持ちを憧れと呼ぶのなら、私は間違いなく憧れている、夢見ている。 『あの人に、追いつきたい』  子供っぽくて、単純で、だからこそ強い願い。 『私もあんな風になりたい』  その一瞬の気持ちが、心に焼き付いて離れない。あの春の日から、ずっと追いかけている。今も変わらず、私を導く道しるべ。  あんな風になってもなれなくても、せめて近づきたいと願う気持ちが、私の原動力だった。  恋心は投げ捨てた。憧れは闘争心へ。そしていつか追い抜いてみせる。認めさせてみせる。ひたすらその気持ちで、あの別れの日からがむしゃらに働き続けている。  だってすごく好きで。好きで好きでどうしようもなくて。たとえ本人にあれは恋じゃなくて憧れだと切り捨てられたとしても、私にとっては間違いなく恋だった。偽りなく好きだった。  だってそうでなければ、ここまで気持ちを駆り立てられはしない。    先輩にはあれ以来会っていない。連絡も取っていない。まだこの街に住んでいるかどうかさえ、知らない。  それでも、生きていればいつか会う日もあるかもしれない。  もしもあの気持ちをもう一度味わう日がもしも来るのなら、願いがかなうのならば今度こそ、私は間違えない。  あの日投げ捨てたI LOVE YOUを拾い上げ、間違いではなかったと、少し歪んでいるけれどこれも間違いなく恋なのだと、認めさせてやる。  そう考えるたび、この考えこそがあの日先輩に投げ捨てろと言われたIF(もしも)なのだと、不思議な気持ちになる。私は何ひとつ変わっていない。あの人のようになりたいと追いかけながら、あの人には決してないれないのだと思い知る。  苦笑しながら、私は今日もまた橋を渡る。    霧深い雨の街、街燈だけが導くこの先の道。あの河を越える橋をゆっくり渡って、どこまでも行けると思った。道に果てはないと信じていた。いつまでも一緒に行けると思い込んでいた。  夕闇、オレンジ、導く光。  胸の奥に暖かな火が灯る。    私は私のままで、あの人を追い越してみせる。
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