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反らされた褐色の喉に噛み付く。出血はしないように、でも歯が食い込むぎりぎりまで。ぐ、と力をこめると痛みのせいかふるりと震えた。その震えにさらに欲が煽られる。あぐあぐと何度も角度を変えて噛み付くけれど、彼は怒りも叱りもしない。ああ、痛そうだ、と頭の片隅で思うのにやめようという気はまるで起こらなかった。
「随分と熱心だな。」
「そりゃあ、君だからね。」
返事のために離した口をもう一度寄せると大きな手に阻まれた。
「何、」
「いやぁ、お前がそう齧り付いてると顔が見えないんでね。」
「そう、」
邪魔な手にもあぐあぐと噛みつく。程よく肉のついた手は首筋よりも厚くて噛みやすい。けれどやはり首の方が良いな、と思った。
「お前噛みだすと途端に語彙力と言うか、コミュニケーション能力落ちるよな。」
当たり前だ。そんなものを保っていられるだけの理性を持っていればこんな風に人の身体に噛みつくはずがない。無言の講義として指を数本まとめて口の中へと誘い込む。奥歯に爪が当たるのを感じた。傷が付いたなら、あとで磨いてあげよう。
「殺したい、」と呟きを拾われてしまい、何もかも終わることを覚悟したが、予想に反して彼はそれからも私の側にいた。あれこれと吐かされた末に彼が選んだのは「死なない程度に殺されること」だった。要するに疑似殺人だ。もっとも、腹に手を入れてかき回したり、臓物を引き摺り出したりすることはできないため、ギリギリの許容範囲、咬殺だけが認められた。
「いいの?」
「別に良いぞ。お前に俺が殺せるとは思えん。」
性癖を引きずり出され満身創痍な私に出された垂涎ともいえる提案。恐る恐る聞いた私に彼はしれっと返した。
確かに普通に考えれば殺せはしない。
私は身長体重握力ともに平均値。楽器をやっていたせいで指の力は若干強いが大したことはない。武道も齧る程度にしかやったことがない。
それに対して彼は180オーバーの身長にごりっごりの体育会系。現役の警察官。どこをとっても私が勝てる見込みはない。
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