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でもそうじゃない。殺せそうだから殺す、殺せなさそうだから諦める、そんな次元の話ではないのだ。
一緒に寝てる時、無警戒に食事をしているとき、殺意があれば、いくらだって殺せる機会はある。そう思いもしたが、口は噤んでおいた。下手なこと言って、やっぱダメ、なんて言われたらいろいろと耐えられない。
「それにしても、自分の彼女が猟奇的性癖をしているとは夢にも思わなかったな。」
「私も自分の彼氏がそれを知ったうえで逃げずに折衷案を出すような豪胆な人間だとは思わなかった。」
遮られた首は諦めて大きな足に噛みつく。手や首に比べて硬い。血管の浮き出た足の甲に歯を這わせた。本当はこのまま噛みちぎりたいところをぐっと我慢する。もっと強く噛んだらどれだけ血が出るだろう、彼はどんなうめき声をあげるだろう、なんていう欲望は歯ざわりに集中することで追いやる。くすぐったいのか、時折足が揺れた。少し上がってくるぶしに噛みつく。ごつごつと骨ばっていて、薄い皮膚のすぐ下に硬い骨があるのが分かった。口の中でごり、と音がする。痛かったのか息を飲む音が上からした。もっと痛くしたい、もっと優しくしたいという反する気持ちがせめぎあう。噛むのをやめる、という選択肢は端からない。
「……まるで骨に食らいつく犬だな。」
鼻で笑っているが、なんとも言えない気持ちになる。変態的性癖をしている自覚はあるため蔑まれようが罵倒されようがもはや痛くもかゆくもないが、彼自身自分を餌と例えるのは良いのだろうか。ひたすらしゃぶりつかれるだけの骨だというのに。薄い褐色の皮膚に歯形が付いた。
あちこちと噛みつくが、やはり物足りない。どこを噛んでも楽しいには楽しいのだが、高揚感にかけて、どこか緩慢としている。それはおそらく急所を?ませてもらえないからだろう。
私は別に噛みつきたいわけじゃない。私はただ殺したいのだ。
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