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「嫌いな奴とかは殺したいと思わないのか?」
「そういう人は、私の知らないところで勝手に死ね、って思ってる。わざわざ自分の手を汚したくない。」
「俺を殺すときは汚れてもいいのかよ。」
「良いよ。」
ふわふわした頭は指を噛んでいるうちに熱が引いていった。おそらく今日はもう首を噛ませてはもらえないだろう。
「愛してるから、殺したい。」
「そりゃ光栄だ。」
思ってるんだか、思ってないんだか。噛んでいた指に舌先をつままれる。
愛してるから殺したい。理解してもらえるとは思ってないし、されたいとも思わない。少なくとも私が愛してるから殺したい、と誰かに言われたらふざけるなと張り倒すだろう。
頭ではわかってる。異常だし受け入れがたい。自身、嫌悪している。けれどそれよりもはるかに深い所からその殺意はやってくる。もはや自分の手には負えない衝動。
殺したい、けれどきっと殺してしまったら私は泣くだろう。大切な人が死んでしまった、と。
殺したことを後悔しながら、泣きながら、喜ぶのだろう。自分が殺したのだと。自分の手の中で死んでいったのだと。泣きながら、その死体に食らいついて飲み下す。噛んで千切って啜って、手を突っ込んで引きずり出して、何から何まで食らい尽くすのだろう。泣きながら悦んで。大切なものを自分だけのものに、一つになれたことに浸って。
最大の悲しみであり、最高の喜び。相反するそれはきっと蜜の味がするのだろう。
「おい目がやばいぞ。」
「今更。ていうか君は何なの?」
「何が。」
「……何で噛ませるの?マゾなの?」
「まさか。被虐趣味はないな。可愛い可愛い彼女様の要望なら応えるもんだろ。」
肩をすくめる芝居じみた動作に眉を寄せる。
それがわからない。マゾではない。なら何でこうも加虐を許すのだろうか。疑似殺人をこうも許すのか。普通こんな趣味があるとわかれば離れていくだろうに。このネタで今後私を強請るつもりか、と思わないでもないが、ほら、と身体を差し出されてしまえば思考を手放さざるを得ない。
「君が不死身だったらいいのに。」
「そうすれば何度も遠慮なく殺せるって?」
「うん。」
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