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鬼神
――――――――――
とある町。
「行ってきます」
誰に伝えるでもなく放ったその言葉は、少し寂しく空気を振動させた。
「神名 悠乃(かみな ゆうの)」16歳。高校生。
現在、早朝。天気は快晴。
ふぅ。と小さく吐き出しながらゆっくりと自室の鍵を閉める。
装着している黒縁眼鏡のテンプルを何気なしにいじりつつ、男の子にしては少し長い黒髪が、そよ風にふわりと揺れた。
「あ、もうこんな時間!」
ふと、制服の内ポケットから取り出したスマートフォン。
その画面に映し出される時間を確認し、登校時間が迫っていることに気が付いた。
さっきまでの落ち着いた様子はどこへやら。
僕は急ぎ足でアパート2階から、1階への階段を駆け降りる。
かんっ、かんっ、かんっ。
鉄階段を降りる際の金属音が、大きく周囲に響き渡る。
「急がないと遅刻する!」
ようやく1階へ到着。
僕は、駆け降りたスピードを殺すことなく、高校への通学路を全力で走り出した。
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