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もしも、本当に貴方がごくゆっくりと年を重ねていくのだとしたら。
私に許された時なんて、貴方の生きる時の長さに比べたら、ごくごく儚いものなのでしょう。
私は、貴方よりも先に老いる。
そして、貴方はいずれ、私を失う。
願わくば、それから先の幾星霜、独りにはどうかならないで。
私の心はずっと貴方の心に寄り添うから。
きっと、貴方の傍には子どもや孫もいる。気のおけないご友人もいるでしょう。
もしも寂しくなったなら、その時は空に輝く数多の星を見て、今日や、これから起こるであろう幸せな時を思い出して。
その為に、この綺麗な星空があるのかもしれない。
――いつか訪れる遠い日に、貴方が寂しい思いをしなくて済むよう、これから先も、たまにでもいいから、また、綺麗な星空の下で楽しくお喋りをしましょうね。
「矢潮さん。私に許された儚い時を、貴方に差し上げます。だからどうか、私を離さないで」
星空に願いを。
愛する人に祈りを。
おもむろに顔を上げた彼が、私にそっと口付ける。
触れるだけの唇は次第に熱を帯び、果てはこの魂をも求めるような狂おしいキスへと変わっていった。
私はそのすべてを受け入れる。
貴方が私を望んでくれるから。
私も貴方を望んでいるから。
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