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◆◇◆◇
こうして彼の存在が傍らにあり、静かに星空を見上げているからこそ、改めて実感できることがある。
――私、貴方のことが大好きよ。
ずっと前からそうだった。
そして、それは今も変わらない。
冷たい風が一筋吹くと、私が凍えないよう、さり気なく肩にストールを掛けてくれる彼の優しさが好き。
実は、"甘えた"なところも可愛らしくて好き。
例えば、今みたいにストールを掛けた後、何やら思いついたように立ち上がり、おもむろに私を背後から抱き込む形でベンチに座り直すところなんて、特にそう。
寒さから身を挺して私を護っているようでいて、本当は構いたくて仕方がない、と顔に書いてあるんだもの。
私もそれをわかって容認してしまうのだから、彼にはやはり甘いのだ。
白状しよう。
彼とこうして触れ合うのが、とても好きなの。
触れた箇所からじんわりと伝わる彼のぬくもりと腕の力強さが、私の心を幸福で満たすから。
彼から愛されているのだと、強く感じられるから。
「矢潮さん、抱えてくれるのは嬉しいけど、貴方は寒くない? コーヒーのお代わりはいかが?」
傍らにあった水筒を持ち上げて示すと、彼が首を横に振る。
「私でしたら平気です。なにせ、雪だるまを抱っこしていますからね」
からかうようにそう言った彼は、ギュウと私を抱き締める腕に力を籠めた。
私の着ているセーターに、彼の腕が食い込む。
幾重にも着込んだ衣類がクッションとなったので苦しくはない。けれど、そのお陰で、彼の言わんとすることを理解した。
これは暗に、私の着膨れを指摘しているのだ。
(そういえば、出掛けに『雪だるま』って言われた)
出掛ける直前に、白いセーターを着込む私を見た彼が、そう茶化してきたのを思い出す。
「家庭教師をなさっていた時は、こんな意地悪言わなかったのに」
彼との出逢いは、私が高校に入学する直前の春休み。
当時の彼は冷徹で厳格な家庭教師で、教師として接している時は勿論のこと、プライベートで会った時も、意地悪な言動は決してしない人だった。
なのに、今はこの通りだ。
過去の事実を引き合いに出して、意地悪を言われたことに抗議すると、憤慨して突き出していた上下の唇を指で摘ままれてしまった。
「当然です。大事な生徒に失言なんぞで嫌われたくはありませんからね。でも、今のあなたは生徒ではなく、私の可愛いつれあいです」
――何をしても、どんな姿でも可愛いのですから、冗談のひとつふたつは許してくださいな。
好青年風の爽やかな笑顔でそう言われてしまうと、こちらはもう為すすべもない。
「むううっ」
反論しようにも上手い言葉が見つからず、おまけに唇も摘ままれたままだ。
あまりの歯痒さに、思わず唸ってしまった。
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