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 くっつき魔を引き剥がしてからその隣に腰を下ろし、天体観測を再開する。  墨を零したような真っ黒な空に、燦然と輝く数多の星。  遥か彼方の宇宙を漂い、その闇に決して呑まれることのない強い光を放ちながら空に在り続ける様を想像すると、感動すら覚える。  だが、同時にもの寂しく感じてしまうのは、やはり記憶の片隅にある過去の星空を思い出すからだろう。 「この星空もとても綺麗だけど、私達が子供の頃は、大きな星から塵のように細かな星まで、本当によく見えましたよね。こうして星空を仰ぐと、時の移ろいを感じるなー」  しみじみとそう告げると、いつもはどんな話にも即座に返事をくれる彼が、珍しく口籠る。 (私、なにかおかしなこと言ったかな?)  そっと彼を窺うと、心なしか戸惑っているように感じられた。  昔の星空の様子を思い出すのに、時間が掛かっているのだろうか。 「……そうですね。昔は、現在のように夜中まで照明が点いていることはなかったので、日が暮れると本当に真っ暗で、その分、星もよく見えたものです。満天の星なんて、ごくありふれたものだった」  彼の調子にも表情にも、特段変化はない。  ただ、彼の纏う空気がわずかに緊張していた。 (さっきの話のどこに引っ掛かったのかしら?)  幸せなひと時を、自分の発言で台無しになんてしたくない。  彼の気掛かりがなにか、それを探るのはまたあとで。  まずは、彼の緊張を緩めなければ。  こちらの警戒を悟られないように、彼が緊張していることに気付いていない態でさり気なく振る舞う。  気楽に話せるような無難な会話に持っていくには、やはり彼の発言を参考にするのがいいだろう。  ピックアップする話題を慎重に選ぶ。 「それ、地上の明かりが星空に影響を及ぼすということですよね。電気の照明って光が強いのかな」 「どうやらそのようですね」  そう頷く彼から緊張が緩むのがわかる。 「いくら地上でのこととは云え、電灯を広域で使用すれば、空をも照らしてしまうのでしょう。結果、星の光は薄れ、消えたように見える。夜間の活動に照明は不可欠ですが、やはり趣はありませんね」  苦笑混じりに告げる彼の雰囲気に、違和感はない。  なんとか不穏な状況からは脱したようで、それにひとまず安堵した。
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