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 二杯目のコーヒーを飲みながら、先程の自身の発言を省みる。  今後、うっかりヤブヘビを仕出かさないように、彼のネックとなりそうな話題を把握しておかなければ。 (でも、とりわけ大した話をしたわけでもないのよね)  彼が口籠る直前に私がしたことと言えば、昔の星空の有り様について彼の共感を求めると共に、古今の星空を比較して、時の移ろいを実感したくらいだ。 (まさか、星空の話はしたくなかったとか? ううん、流石にそれはないわね)  そもそも、私をこの星空の下に連れ出したのは彼だ。  自ら、苦手な話題を誘発するような真似はしないだろうし、少し緊張気味ではあったものの、星空の話なら彼の口からも語られた。  ならば、彼は私の発言の中に、どんな懸念材料を見つけたのか。 (ひょっとして、『"私達が"子供の頃』って言葉に引っ掛かったとか?)  問題の発言をした時、彼に子供の頃に見た星空を思い起こさせるよう誘発し、共感を得る為に、"私が子供の頃"とは言わず、"私達が子供の頃"と言ったように記憶している。  そんな私の一言から、彼は自らの過去を思い出して、何か感じるものがあったのかもしれない。 (昔のことを思い出したり、話したくない気持ちがあったから、あの瞬間、口籠っちゃったのかな。それとも――)  ただ単に、回想することすら忍びなく、その記憶の一端でも語ることを避けたかったのか。  或いは、彼の過去に関する話を聞いた私が、彼にとってなにかしら不都合になることを悟ってしまうのを恐れたとか。 (なにかしら不都合になること、か。たくさんあるんだろうな。ねえ、矢潮さん)  彼は多くの秘密と謎を抱えた人だ。  年齢、家族構成、出身地、経歴等、彼の基本的な情報を、私は大まか且つ曖昧にしか聞かされておらず、詳細を尋ねても、はぐらかされてきた。  そればかりか、彼が家庭教師として私の前に現れた時は偽名を使っていたし、豊富な知識や、たまに私に教授・実践する"おまじない"も、どこで仕入れたのかさっぱり謎なのだ。    合理的な人だからこそ、彼の言動には必ず、なにかしらの意味がある。  だから、彼が私に秘密を明かさないのも、きっと彼なりに理由があるのだろう。  それに、私にとって必要なこと――つまらない嘘や、道徳や倫理から外れた行為の有無等――は尋ねれば、必ずきちんと教えてくれるのだから、彼に秘密があろうとなかろうと、大した問題ではない。  問題があるとすれば、先程のようにふとしたきっかけで彼が困惑する羽目に陥ることだ。それと―― (問題はないんだけど、まったく秘密が気にならないわけではないのよね)  秘密にされて寂しいのか、秘密に対する好奇心なのか、はたまたその両方なのか。  彼が秘密を抱えているように、私もまた複雑な感情を抱いていた。
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