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「ゆづるさん、今、何を考えているのですか?」  深刻そうな声で彼が問い掛け、星空を仰ぐ私の頬に触れる。  温かな彼の掌が左の頬を覆い、硬い親指の腹で左目の下瞼をなぞり上げた。  私は泣いていない。  でも、泣きそうな顔なのかもしれない。 「夜空に願っていました」 「なんと?」 「"美しい星空が、この先もずっとありますように"  ずっと先の未来も、貴方と、そして、いずれ生まれてくる子ども達と共に、今みたいに星空を眺めていたいから」 「叶いますよ、きっと」  彼が優しく微笑む。 「でも、こうも願っているの」  注意深く彼の目を見て、祈るように殊更ゆっくりと告げる。 「"夜空から星が消えてしまうくらい遠い遠い未来も、貴方と共にいたい"」  彼の表情から不意に笑みが消えた。  どんな感情が、今の彼の中にあるのだろう? (迷子のような顔をしているわよ、矢潮さん)  途方に暮れるような、強がって平静を取り繕うような。  そんな心の揺らぎを見せた後、泣きそうな顔で笑む。 「嬉しい言葉。プロポーズのようですね」 「プロポーズですよ。でも、"その願いは叶わない"って、顔に書いてあるみたい」  少し意地悪を言うと、彼は首を横に振った。 「そんな、まさか。そうであればいいと思っていますよ」 「泣きそうな顔してる」 「意地悪を言わないで、ゆづるさん」 「ごめんね」  謝って、彼がそうしてくれたように、私も右手で彼の頬を覆い、親指でその目元を拭った。  星空を眺めて思い付いた彼の年齢についての憶測だか想像を今告げたら、この人はどんな顔をするだろう。  でも、あながち見当外れではないのかも、と彼の震える手を感じて、思った。 「抱っこしましょうか、矢潮さん?」  立ち上がり、彼と向き合って腕を広げると、無言で背中に腕を回されたので、お返しにこちらは彼の頭を抱える。  しがみつくような強い腕の力に、やっぱり迷子みたいだな、とぼんやり思う。 「貴方が抱えるたくさんの秘密ごと、貴方を愛していますよ、矢潮さん。でも、それがもとで貴方が苦しむくらいなら、どうかひとりで抱え込まないでね。私、案外、タフなのよ」  抱える頭が、腕の中で三度頷いた。
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