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出会いの春
大学進学が決まったのと同時に、お店の手伝いを任された私は、ぽかぽかした春の日差しが心地よくて、カウンターでうとうとしていた。
その日はお客さんも少なくて、寧々さんは笑いながら、少し休憩を許してくれたのだ。
「すみれ、食べる?」
漂ってくる甘い匂いにお腹を鳴らしていた私に気づいたのか、厨房から寧々さんが私に声をかけてくれた。
「え、いいの!食べる」
私は、昨日寧々さんが買ってきていた食材と、この匂いで大体の予想がついていた。多分、いやきっと、バナナのカップケーキだ。
オーブンの熱でとろりとしたバナナが乗っかっていて、中のバナナが入った生地は少ししっとりしていて。中にはごろっとクルミが入ったバターたっぷりのそれは、寧々さんが作るお菓子の中でも私のお気に入りの1つだった。
そんな訳で、すっかりテンションの上がってしまった私が、厨房に行こうと立ち上がった時、入り口のベルが鳴った。
「いっ、いらっしゃいませー」
途端に、反射的に声を上げる。
中に入ってきたのは背の高いひょろっとした黒づくめの男性と、がっしりした身体を白シャツと黒のジャケットで包み、鋭い目つきをした男の2人組だった。
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