出会いの春

1/8
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

出会いの春

大学進学が決まったのと同時に、お店の手伝いを任された私は、ぽかぽかした春の日差しが心地よくて、カウンターでうとうとしていた。 その日はお客さんも少なくて、寧々さんは笑いながら、少し休憩を許してくれたのだ。 「すみれ、食べる?」 漂ってくる甘い匂いにお腹を鳴らしていた私に気づいたのか、厨房から寧々さんが私に声をかけてくれた。 「え、いいの!食べる」 私は、昨日寧々さんが買ってきていた食材と、この匂いで大体の予想がついていた。多分、いやきっと、バナナのカップケーキだ。 オーブンの熱でとろりとしたバナナが乗っかっていて、中のバナナが入った生地は少ししっとりしていて。中にはごろっとクルミが入ったバターたっぷりのそれは、寧々さんが作るお菓子の中でも私のお気に入りの1つだった。 そんな訳で、すっかりテンションの上がってしまった私が、厨房に行こうと立ち上がった時、入り口のベルが鳴った。 「いっ、いらっしゃいませー」 途端に、反射的に声を上げる。 中に入ってきたのは背の高いひょろっとした黒づくめの男性と、がっしりした身体を白シャツと黒のジャケットで包み、鋭い目つきをした男の2人組だった。     
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!