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しとしと雨
外は雨が降っている。
カウンターに突っ伏した私は、庭に咲いている花から水滴が落ちていくのをぼんやりと眺めていた。
梅雨の時期は客足が少ない。手持ち無沙汰になっていた私は、時折、店の窓ガラスに当たる雨だれの音をBGMにウトウトし始めていた。穏やかな雨は庭先のバラに落ちてはねる。
そんな光景を見つめつつ、そう言えば、水も滴るいい男なんて言葉があったなぁと考える。
でも、どちらかといえば水と聞いて思い浮かぶのは女性の方なんだよなぁ、とも。
じっとり濡れた黒髪。色白の頬や額に張り付いたその黒い筋。水滴が残るまつげを伏せれば、また一粒雫が落ちる。それに濡れてひときわ鮮やかになる唇の赤。
そんな女性を想像し、やっぱり女性の方が絵になるよな、と1人頷いていると扉が開く音がした。
「いらっしゃいませー」
慌てて体をカウンターから起こし、入り口まで向かうと、そこには見知った人が濡れネズミになって立っていた。
「黒川さん」
驚いて声をあげれば、彼は苦笑いを浮かべて額の髪をはらっている。
「出先で降られてしまって。急に降ってくるとは思いませんでした」
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