第九章 錯綜する宴

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「集落に交戦の痕跡はありませんでした。事前に避難したのではないでしょうか」  ――あるいは集落を捨てたから、何者かが破壊した。集落の住民が自ら破壊する意味はないだろ。  いかに不満や疑問があっても、死体も血痕もない以上は戦いがあっての結果と言う線は無い。謎は深まるが大きな事件を指を咥えて見過ごすことも出来ない。 「イスラム国やその他の交戦勢力から避難するとしたら、どこが適当だと思うかな」  いっそのこと避難したとの仮定を受け入れて想像を拡げてみた。 「……それは、マンピジュではいかがでしょうか」  ――あいつらが居たんだ、一緒に住民が逃げて来たとしてもおかしくは無いぞ!  場がどよめく、どうしてそんな結論になったのか意味が解らない。厳しい視線が複数突き刺さった。 「適当なことを言うなマリー曹長!」  トランプ中尉が叱責する、想像で物事を言うくらいなら解らないと返事をすべきなのだ。 「今朝方」ずっと黙っていたトゥヴェー特務曹長が落ち付いた声色で注目を集め「東部郊外から、数百の流民が入って来たとの話を聞きました」  それだけと言えばそれだけの発言。流民がやって来るのは珍しいことではない、どこかで耳にしたとしても一切気に掛けなかっただろう。  だが今ここで聞けば、どうにも気になってしまう。 「エルドアン大尉、疲れているところ悪いが東部校外の流民について調べてきてはもらえないだろうか」 「了解です、少佐」  命令が下ったところで一旦解散になる。結果がもたらされるまで、刺す視線だけで罵声を浴びせて来ることは無かったが、どうにもトランプ中尉とウマが合わないとマリーは確信していた。
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