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第十二章 マハラジャの気まぐれ
◇
夕暮れから夜に変わろうとしている時分、拠点として宛がわれた廃墟にマリーは居た。屋根は無い、とうの昔に爆撃や砲撃で崩れ落ちている。
それでも遮蔽になる壁があるだけマシで、兵は皆思い思いの場所で座って毛布にくるまっていた。生暖かい風が肌にまとわりつく。
「生きていれば腹も減るし、眠たくもなる、か」
――苦しい苦しいと愚痴をこぼしているうちはまだマシだな。もっともILBにそんな文句を言うようなやつはいない。
味方の支配地域であったとしても、不寝番を置いて警戒を怠りはしない。その責任者は当然下士官、それも長ということになる。
小銃を抱きかかえるようにして瓦礫に腰を下ろし、過去に扉があったあたりの空間を視界に収める。注意だけしていれば何かが動いた時に、瞬時に対応出来るものだ。
もし奇襲攻撃を仕掛けて来るなら、到着して間もない部隊を狙うのは道理。
「エルドアン大尉が、マリー曹長のことを褒めていたよ」
ウィリアムズ曹長が両手にコップを持ってやって来た。香ばしいコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。部隊への補給の他に、各自が自前で購入した物資も結構出回っていた。
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