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第十六章 砲声の行方
◇
ダマスカスのホテル、仮の執務室にあいつがやってきた。世界中どこででも必要な時に必要な情報を抱えて。
よれて煤けたボロに身を包み、開け放たれた扉を潜る。にやけた表情の裏には何が隠されているのか。
「よぉ、元気そうでなによりだ」
軽く挨拶をすると、破顔してところどころ抜けた歯を晒す。こうやって親しく話しかけてくれる人物など極々わずかでしかない。中でも敬意を払って相対してくれる人物は島のみ。
「へへへ、幾つか報告がありまさぁ」
出入り自由、軍資金も自由、いつでも好きな国に行って気になる情報を見付けてこいとだけ言われている。多くを預けてくれ、そのうえきっちりと話を聞いてくれる、コロラド先任上級曹長はいつ死んで来いと言われても喜んで従うつもりでいた。
「一杯やりながら聞くとしよう」
緑色の小びんを二本取り出して手渡す。アル・マーザ、レバノン産のビールだ。なぜシリアでレバノン産を飲むかというと理由は単純だ、シリアのバラダと飲み比べたら、殆どの者はレバノン万歳と叫ぶだろう。
「すいやせん」
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