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いきなりの話で混乱していたから、今日は卓也には帰ってもらって、私は1人でマンションに戻った。
早くお風呂にでも浸かって気持ちを整理したかった。
エレベーターを降りてハンドバッグから鍵を出した時、廊下の壁に寄りかかるようにして男の人がしゃがみ込んでいることに気が付いた。
「だ、大丈夫ですか?」
素通りしようと思ったけど、具合が悪そうな顔色の悪い男性を無視することは気が引けた。
真っ青な顔をしたその男性は驚いたように目を見開いて私を見た。
「肩を貸しましょうか? どこの部屋ですか?」
男性は綺麗な顔をしていた。卓也のような男らしい端正な顔立ちというよりは、どこか中性的な美しさを持ち合わせている。
「……いや、僕は最上階に住んでいるんです……」
最上階というと25階だ。確か一部屋もかなり広い造りで、私の住む5階とは家賃も倍以上は違ったような気がする……。
「キミは……1人暮らしなの?」
唐突な質問で少し身構えた。
「ああ、ごめん、怪しいよな」
男性は綺麗な笑顔を見せた。
「か、彼氏がいます。今日は来ていないけど……」
「そっか。警戒しないで、僕も恋人はいるから。ただ、今日はちょっとショックなことがあって、家に居られる気分じゃなくて。マンションの中をフラフラしていたら目眩がしてきたんだ」
そう言いながら、男性は立ち上がってまた私に笑いかけた。
「そうですか……。何となく気持ちはわかります。私もそんな気分なので」
小さくため息をつきながらそんな言葉が口からこぼれてしまって、私はバツが悪くなって「じゃ、帰りますね」と自分の部屋に向かった。
「ねえ、ちょっと話さない? お互いに、いまいちな気分ならさ。下にあるカフェに行こうよ」
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