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ある日の週末の飲み会で、潰れてしまった先輩の面倒を見なければならなくなり、送って行ったはいいものの、これがまた質が悪くて吐くわ暴れるわで挙句意識を失うように爆睡してしまい、後始末をしてすっかり疲れ果てた俺は、そのまま眠ってしまった。
目覚めたのはもう昼前で、昨夜から恵に連絡を入れる事すら忘れていて、慌てて『これから帰る』とだけメッセージを送った。
直ぐに帰ってきたメッセージには、『気を付けて帰って来てね』と特に怒ってる様子も無かった。
帰宅した俺をいつものように笑顔で出迎え、流石に罪悪感に苛まれた俺は、昨日の事情を説明した。
「大変だったね。今日は家でゆっくりしよう?」
その日は一緒に出掛ける約束をしていたにも関わらず、恵はそう云って俺を労ってくれた。
そんな恵の優しさに俺は甘えて、慣れて増長して行った。
今までは遅くなる時には必ず連絡を入れていたのに、友人や先輩に誘われて大学の帰りに遊びに行ったりして、連絡を忘れる事が徐々に増えていった。
毎日俺の分も夕食を作ってくれている恵を思うと罪悪感を覚えたけれど、その時の俺は、友人達と遊ぶのが楽しくなっていた。
勿論恵に対する気持ちが変わった訳じゃ無い。
恵だけを、誰よりも愛していた。
だけど恵との関係は誰にも云う事なんて出来る筈も無く、周りには「親友と同居してる」としか云えなかった。
だから周りは俺はフリーだと思い、遊びに誘われる回数も増えて合コンにも誘われるようになった。
飲みに行っても朝まで付き合わされ、連絡を入れ忘れる事も多くなって行った。
恵は一度も俺を責めたりしないし怒ったりもしない。
いつも変わらず穏やかに笑っていた。
姉貴が居れば、間違い無く酷く怒られただろう。
だけど姉貴は前年の秋から海外に留学していた。
姉貴以外俺と恵の関係を知る人は居ない。
だから恵の話を人にする事も無かった。
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