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「大丈夫大丈夫。失敗したのはホント、後半だし。ほとんど出来上がってたデショ?」
自分の心を読んだかのように登場したのはカシューナッツ・・・ではないな。日が替わったから。
「デショ?じゃねーよ。お前今はっきり失敗って言いやがったな!!」
自分よりは幾分か背の高い、その男はふすまの敷居につま先立ち、鴨居を手で掴んでいる。
勝手に人様のお宅に上がり込んでいるのは、魔術でもなんでもない。単に、昨夜鍵をかけ忘れただけだ。
「お前、じゃないでしょ?一応2年も年上なんだから・・・。ピスタチオ先輩って呼んで」
今週はおつまみシリーズか?
このピスタチオ先輩の本名は「山田太郎」。いや、この名前の人は日本国内に実在するとは思うが、きっと周囲の人物は心のどこかでこの名前も偽名だろうと思っている。
この人との出会いは前年の春、ぼくが県外の大学に進学した所から始まる。
桜舞い散る坂道、各部活動による新入生勧誘の真っただ中をぼくは、同じ高校から進学した山井はるかと共に歩いていた。
「あっ、あの人カッコイイ!!」
突然そう言って彼女が指差したのは奇天烈な変装をした数人のグループだった。その中の一体誰を指差して言ったのかは分からないが、はるかは深刻な美的感覚欠落女子のため、決して世間的に言うイケメンではないだろうことは確かだった。
しかし、彼女が吸い寄せられるように坂を下った先に居たのは、まあまあのイケメンだった。と、思いきや、その横に居るヒゲがモサイ、おじさんのような大学生だった。
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