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「今日から受験生なんだから、シャキッとしなさい」
「はーい、先生」
食卓についても急ごうとしない稔に、服を着せてやる。
こうしてボタンを掛けてやるのも、今のうちだけだと思い続けて何年が経っただろう。
俺も気づけば30歳になっていた。
「公園までは送ってやるから、そこからはちゃんと歩けよ」
“ふあい”という気のない返事が返ってきた。
そんな彼の口についた食べかすを拭き取ってやり、寝癖を整える。これで大丈夫のはずだ。
仮にも自分の息子をあんな状態で登校させるわけにはいかない。
俺は稔の通う中学の教師だ。
担当は英語。
けれど、俺達が親子だということは、教師達しか知らない。
1人の生徒を贔屓してるように見えてはいけないと、配慮した結果でもある。
それに、稔自身も隠したがるからだ。
理由はわからないけれど、きっと恥ずかしいんだと思う。
だって、学校で見る彼の姿は、俺の知ってる稔とは少し違うから。
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