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「ぼく……はおと、けっこんする」
「えっ」
なんの脈略もなく放たれた言葉に、俺は動揺した。
子供の戯言といえばそれまでだが、今まで稔の口から1度も、“結婚”なんて言葉を聞いたことはない。
「……ど、どうしたんだ稔?寂しくなっちゃった?」
意図の読めない言葉に俺は、その細い身体を引き寄せる。温かい子供の体温がじんわりと俺の体に広がった。
だんまりを決め込む稔に俺もしばらく無言だった。
数秒後、稔が身をよじらせるのを合図に、俺は回した腕を緩める。
「ぼくが…………から」
「……ん?」
呟かれた言葉に耳を寄せれば、小さな手のひらが俺の頬を包み込む。
ゆっくりと近づくその影に俺は飲み込まれた。
「ん……」
「ーーっ!?」
唇に触れた柔らかい感触。
視界一杯に広がった稔の顔。
そのどれもが現実離れしていて、一瞬時が止まったような錯覚に陥った。
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